名古屋地方裁判所 平成7年(行ウ)23号 判決
原告
株式会社ゑり正ビル
右代表者代表取締役
野村栄一
右訴訟代理人弁護士
山岸赳夫
同右
栁田潤一
被告
一宮市建築主事 宮地孝雄
右訴訟代理人弁護士
大場民男
右訴訟復代理人弁護士
堀口久
右指定代理人
中山孝雄
同右
高井正
同右
藤居正樹
事実及び理由
第四 当裁判所の判断
一 原告適格及び訴えの利益について
本件区分所有建物は、A区分及びB区分に区分されているところ、本件建築確認は、本件区分所有建物の主要構造部であり、かつ、共用部分である床等(A区分内)の改変についてされたものであるから、B区分の所有者である原告は、本件建築確認の取消しを求める法律上の利益を有するというべきである。
また、平安閣が本件計画の実施を断念し、新建築確認を得ていても、本件建築確認が有効に存在している以上、法的には、再度計画を変更して本件計画を実施することも可能であるから、原告は、なお、その取消しを求める訴えの利益を有しているといえる。
二 構造耐力の審査の欠如について
1 本件計画の性質
(一) 本件計画は、店舗として使用されていたA区分を、駐車場及び葬斎場として使用するためのものであり、損なわれた建築物の規模、構造又は機能を従前の状態に向かって回復させるものではないから、「修繕」には該当しない。
(二) 本件計画は、A区分の床の一部を撤去する内容を含んでおり、法二条五号の主要構造部の変更をその内容としているから、「模様替」に該当する。
しかし、法六条一項に規定する「大規模の模様替」に該当するとするためには、建築物の主要構造部の一種以上について行う過半の模様替でなければならないところ(法二条一五号)、証拠(乙一、五)によると、本件計画において撤去される床の面積は約五九九・四一平方メートルであることが認められ、本件区分所有建物の床の面積(主要構造部に該当しない地階の床の面積を除く。)約二万一五一二・六三平方メートル(乙一、五)の過半には遠く及ばないから、本件計画は、「大規模の模様替」には該当しない(なお、右の場において、床の「過半」とは、その文言からして、その数量的な過半、すなわち、面積の過半を意味するものと解すべきである。)。
なお、外壁も建築物の主要構造部に該当するが、本件計画において、その過半の模様替が行われることを認めるに足りる証拠はない。
2 用途変更をする場合の構造耐力の審査の要否
法は、その六条一項において、同項一号から三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合、これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は同項四号に掲げる建築物の建築をしようとする場合においては、建築主事の確認を受けなければならない旨規定しているが、本件計画の模様替が、建築物の「建築」に当たらないことは明らかであり、また、1において判示したように、「大規模の修繕」にも「大規模の模様替」にも当たらないから、本件計画の模様替をしようとする場合にあっては、直接、法六条一項の規定により、建築確認を受けなければならないことになるものではない。
しかしながら、法八七条は、「(用途の変更に対するこの法律の準用)」という見出しが付されていることから明らかなように、法の規定のうち、用途変更に準用すべき規定を掲げている。
そして、同条一項は、建築物の用途を変更して法六条一項一号の特殊建築物のいずれかとする場合においては、法六条(二項及び七項を除く。)の規定を準用する旨規定しているところ、本件計画の模様替は、同条一項一号の特殊建築物への模様替に当たるから、法八七条一項、六条一項により、建築確認を受けなければならないことになる。
また、法八七条一項は、法六条三項をも準用しているが、用途変更について準用されるべき実体規定については、法八七条二項において、建築物(同条三項の建築物を除く。)の用途を変更する場合において準用すべき実体規定を列挙しているから、右の建築物の用途変更について法六条三項を準用する場合には、同項の「当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例」のうち法に係るものは、法八七条二項において列挙されている各規定を意味することになる。
そして、法二〇条は、法八七条二項において用途変更をする場合に準用すべきものとされている規定に含まれていないから、本件計画に基づく用途変更をする場合の建築確認においては、構造耐力は審査対象に含まれないことになる。
これは、法が、従前の建物は、その新築時においてその構造上の安全性に関して十分に確認された上で建築され、その後も法八条により適切に維持管理されていることを前提とした上、建築、大規模の修繕、大規模の模様替に当たらない用途変更については、その建築確認の際、改めて構造耐力を審査の対象とする必要はないとしていることに基づくものと考えられる。
3 したがって、構造耐力を審査の対象としなかったことは、本件建築確認の違法事由とはならない。
三 本件申請が平安閣のみによって行われたことについて
用途変更をする場合の建築確認にあっては、法八七条一項及び六条三項により、申請に係る計画が当該建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例(法に係るものについては、法八七条二項において準用している諸規定)に適合しているかどうかが審査の対象となり、当該申請人がいかなる私法上の権限を有するかについては審査の対象とはならない。
したがって、平安閣の申請のみに基づいてされたことは、本件建築確認の違法事由とはならない。
四 実質的違法性について
前示のとおり、用途変更の場合の建築確認においては、構造耐力は審査対象には含まれないから、被告としては、本件申請に対し、構造耐力の安全性の審査を理由に、建築確認を拒否又は留保するといった権限を有しておらず、むしろ法八七条二項所定の事項を審査した上で、適法である限り早期に建築確認をすることを義務づけられていたということができる。
したがって、右審査の結果、適法である以上、仮に本件計画が実施されることによって本件区分所有建物の安全性が著しく低下することがあるとしても、そのことをもって本件建築確認自体にこれを取り消すべき違法事由があるとすることはできない。
法は、八条において建築物の所有者等はその建築物の構造等を常時適法な状態に維持するように努めなければならないものとした上、一二条において一定の要件の下に所有者等に当該建築物の構造等について報告義務を課し、九条において特定行政庁による違反建築物に対する措置を規定している。したがって、法は、原告の主張するように本件計画の実施により本件区分所有建物の安全性が著しく低下するような場合には、これらの規定により規制し、是正することを予定しているといえよう。
また、原告は、B区分の所有者であるから、その所有権に基づき平安閣に対して違法な侵害行為の中止を求め、あるいは、侵害の結果に対して損害賠償の請求をすることも可能である(本件建築確認は、警察目的による特殊建築物への用途変更の一般的禁止を個別的に解除するものに過ぎず、平安閣に対し、本件計画を実施することにより原告の有する建物所有権や小売店舗営業権を侵害することを許容するものではない。)。
したがって、本件建築確認が実質的に違法であるとの原告の主張は、採用することができない。
第五 総括
以上判示したところによると、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 森義之 岩松浩之)